がんの話

免疫療法は第4のがん治療法

免疫
がん細胞は日々誕生


健康な人でも、毎日、体内でがん細胞が誕生しています。

しかし、このがん細胞が大きくならずに消えていくのは、体内の異物を攻撃したり除去したりする免疫細胞が活躍しているおかげになります。


通常、免疫細胞は、ウイルスや細菌などの異物の侵入を監視するだけでなく、がん化した自身の細胞をも監視して、攻撃を繰り返しています。


がん細胞は免疫細胞を味方に変える


がん細胞は、血管から優先的に栄養を吸収したり、自身が免疫細胞から攻撃されたりしないようにするために、日夜、さまざまな物質を作り出しています。

そのなかには、免疫細胞の監視の網を逃れたり、攻撃力をなくさせたりする物質も含まれます。


特に、一部のがん細胞は、免疫細胞の1種であるT細胞の表面にある「PD-1」という分子に結合するたんぱく質を盛んに作り出しています。

これらのがん細胞は、作り出したたんぱく質を免疫細胞のPD-1と結合させて、自身を味方と思わせて、免疫細胞の攻撃力を失わせます。


そして、がん細胞は、その隙をついて、自身を成長させて、増殖を繰り返します。


新たながん治療法が登場


がん細胞は、常に免疫細胞の攻撃にさらされています。

しかし、がん細胞も、変異を繰り返して、免疫細胞の監視や攻撃をかいくぐる術を身につけます。


そうして、がん細胞の味方となった免疫細胞は、休眠状態となり、本来の働きが失われたまま、がん細胞の成長を見守ってしまいます。


こうした免疫細胞の性質は、古くからがん治療に活かせないかと注目を集めていました。

しかし、さまざまなアイデアや方法が試されましたが、どれも効果が乏しく、有効性を確立できないでいました。


転機が訪れたのは、1996年のアメリカ(米国)のテキサス大学ジェームズ・アリソン教授の「免疫抑制の阻害によるがん療法の発見」でした。

アリソン教授は、この研究過程で、免疫細胞の表面にある「CTLA-4」という分子を発見し、その役割を解明して、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。


なお、アリソン教授の発見したCTLA-4を標的にした抗がん剤の分子標的薬は、2011年に皮膚がんの治療薬「ヤーボイ(一般名イピリムマブ)」として実用化されています。

<ジェームズ・アリソン教授>


・1948年、アメリカで誕生
・1973年、米テキサス大で博士号を取得
・経歴:米カリフォルニア大学バークレー校、米ハワード・ヒューズ医学研究所を経て、2012年から米テキサス大MDアンダーソンがんセンター教授



免疫チェックポイント阻害薬の開発


がん治療は、これまで、外科的手術や放射線療法、化学療法(抗がん剤)による3つの治療法によって、治療が行われてきました。

しかし、がん細胞と免疫細胞との関係が詳しく解明されてきたことで、免疫細胞を活用したがん治療が行えるようになってきました。


この新しいがん治療は、「がん免疫療法」と呼び、「第4のがん治療法」として、その効果の高さが注目されています。

そして、免疫細胞のブレーキを外す免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボやヤーボイが開発され、難治性とされていたがんに対して、高い治療効果を上げています。

<オプジーボ>


商品名:オプジーボ
薬剤名:ニボルマブ(nivolumab、ヒト型ヒトPD-1モノクローナル抗体、抗悪性腫瘍剤)



<ヤーボイ>


商品名:ヤーボイ
薬剤名:イピリムマブ(ipilimumab、ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体、抗悪性腫瘍剤)



CTLA-4を阻害する仕組み


ナイーブT細胞とは、胸腺の外に出てきた抗原提示される前のヘルパーT細胞のことです。

このナイーブT細胞は、リンパ節で、樹状細胞のMHCから腫瘍の抗原ペプチドを提示されると同時に、CD28という分子で樹状細胞のCD80/86という分子と結合することで活性化されて、抗腫瘍T細胞へと誘導(変化)されます。


しかし、活性化した抗腫瘍T細胞の表面には、CTLA-4という分子も出現してしまいます。

このCTLA-4は、免疫抑制に働く分子で、抗腫瘍T細胞のCD28よりも樹状細胞のCD80/86と強く結合してしまう性質があります。

そのため、CTLA-4がCD80/86と結合した抗腫瘍T細胞は、その活性が失われて、キラーT細胞へ攻撃命令を出さなくなります。


そこで、免疫チェックポイント阻害薬であるヤーボイ(抗CTLA-4抗体)を投与すると、抗腫瘍T細胞のCTLA-4が樹状細胞のCD80/86にくっつくよりも先に、CTLA-4を抗CTLA-4抗体と結合させることができます。

これにより、抗腫瘍T細胞の活性が維持・増強され続けて、キラーT細胞への指令が継続し、がん細胞を強力に攻撃することが可能になります。

<免疫応答で活躍する主な細胞>


樹状細胞:敵が誰かというサイン(抗原提示)を強力に行う細胞
マクロファージ:がん細胞を食べて、ナイーブT細胞へ伝える。樹状細胞よりも抗原提示能力は低い
ナイーブT細胞:胸腺の外に出たヘルパーT細胞のことで、抗原提示を受ける前のCD4陽性T細胞のこと。がん細胞の抗原提示を受けると、活性化して抗腫瘍T細胞となり、キラーT細胞への攻撃指令を出す。胸腺で生まれるヘルパーT細胞は、胸腺を出ると、ナイーブT細胞やTregなどへ変化する
キラーT細胞:CD8陽性T細胞のこと。抗腫瘍T細胞が出す指令(サイトカインという物質)を受けて、がん細胞を直接攻撃(がん細胞の細胞膜に穴をあけて、細胞死を促すたんぱく質(グランザイム)を送り込む)
Treg:ヘルパーT細胞の1種で、免疫抑制として働くサプレッサーT細胞のこと。がん細胞が死滅した後、キラーT細胞に攻撃終了の指令を出す
B細胞:抗腫瘍T細胞からの指令によって、抗体を作り出す
NK(ナチュラルキラー)細胞:常に身体を巡回してがん細胞を直接攻撃する細胞。キラーT細胞のように命令がなくても攻撃ができ、がん細胞と遭遇した瞬間に狙い撃ちにする



PD-1を阻害する仕組み


PD-1は、T細胞(ヘルパーT細胞、キラーT細胞、Treg)の表面に出現する分子で、免疫活性を抑制する働きがあります。


腫瘍組織の周辺に移動(浸潤)した抗腫瘍T細胞は、がん細胞を見つけると、キラーT細胞への攻撃指令(サイトカインなど)を放出します。

ただし、このサイトカインは、がん細胞や腫瘍化したマクロファージに自身への攻撃が下されたことを知らせてしまい、これらの表面に、PD-L1という分子を発現させてしまいます。


がん細胞のPD-L1は、キラーT細胞のPD-1という分子に結合して、キラーT細胞の働きを抑制して、がん細胞への攻撃力を失わせます。

このとき、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(抗PD-1抗体)を投与すると、キラーT細胞のPD-1ががん細胞のPD-L1と結合するよりも先に、PD-1と抗PD-1抗体を結合させることができます。


これにより、キラーT細胞は、活性を維持して、がん細胞への攻撃の手を緩めることなく戦い続けます。


なお、がん細胞は、キラーT細胞の攻撃の手を弱めるために、キラーT細胞表面にCTLA-4を常に出現させる制御性T細胞(Treg)などの免疫抑制性細胞を引き寄せます。

また、がん細胞は、TregのCTLA-4を司令塔の抗原提示樹状細胞のCD80/86へ結合させて、指揮官ごと活性を失わせて攻撃そのものを止めさせようとします。


ただし、抗PD-4抗体の投与に、抗CTLA-4抗体を併用して投与すると、このがん細胞のCTLA-4経路への干渉を妨げることができます。

因みに、抗CTLA-4抗体は、TregのCTLA-4と結合して、Tregと抗原提示樹状細胞との結合を阻害するほか、マクロファージがTregの抗体依存性細胞傷害(ADCC)を活性化させます。


これにより、腫瘍組織周辺にやってきたTregは追いやられて、がん細胞の免疫抑制作戦を失敗させることができます。
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